報酬を得て行う通訳案内(通訳ガイド)業務を通訳案内士法に基づく国家資格者以外にも認めようという制度改正が検討されている。観光庁の「通訳案内士のあり方に関する検討会」(座長=廻洋子・淑徳大学国際コミュニケーション学部教授)の第7回目の会合が6月25日に開かれ、中間報告案を議論した。国家資格を持つ現行の通訳ガイドに加え、一定の基準のもとに地方自治体などが認定する新たなガイドを認め、2層の制度にしようというが中間報告案の方向性だ。
通訳ガイド制度では、外客の受け入れ拡大に対応した、地域ごとや言語ごとの人材確保が課題となっている。過去にも海外試験や地域限定資格の導入などの制度改正が行われたが、検討会では、通訳案内士法が有償での業務を国家資格者に限る「業務独占資格」のテーマに踏み込んで議論しており、今年度中に最終報告をまとめる。
中間報告案では、国家資格を持つ通訳ガイドの位置づけを業務独占資格から「名称独占資格」へと改めるとしている。業務は資格者以外にも認めるが、通訳ガイドを名乗れるのは資格者だけとなる。他の資格で言えば、医師などは業務独占だが、調理士などは名称独占にあたる。
業務独占を廃した上で2層の制度とする。現行の国家資格を持つ通訳ガイドは、国が認める“ナショナルガイド”に位置づけ、引き続き高度かつ広範な能力を求める。それを補完する制度として、多種多様な旅行者ニーズに柔軟にこたえるため、国家資格は持たないが、限定的、部分的な能力を求める「新ガイド」(仮称)を導入し、有償での業務を認める。
新ガイドは、地方自治体や観光団体、旅行業などが育成、認定を行う制度とする方針。国は、新ガイドに必要な能力基準などを定めたガイドラインを策定する。具体的な制度内容はこれから詰めていくことになる。
検討会では2層の制度案に賛成意見が多いが、異論も出ている。検討会委員の日本観光通訳協会の辻村聖子氏は、同日の会合で、同協会が6月22日に国土交通大臣に提出した、業務独占を廃止する法改正に反対する趣旨の要望書を読み上げた。要望書では「能力が担保されない新ガイドによりサービスの質が低下する」ことを危ぐしている。
このほか通訳ガイド業の4団体(同協会、全日本通訳案内士連盟、通訳ガイド&コミュニケーション・スキル研究会、日本文化体験交流塾)が連名で観光庁に要望書を出している。業務独占廃止の法改正に反対し、例外規定を設ける場合は通訳ガイドと新ガイドの要件や基準の違いを明確化にするよう求めている。
2層の制度案について、検討会委員の三瓶愼一・慶応義塾大学法学部教授は「両者の差別化が必要。国家資格を目指すインセンティブを検討すべき」と指摘。前回会合(5月)でも「困難な試験に合格しなくても業務ができれば、受験者の減少が危ぐされる。国家資格が差別化の根拠となり、報酬や就業の機会に反映されるようにすべき」と述べた。一方で、旅行業やホテル業の委員からは、顧客や業務内容に応じて通訳ガイドと新ガイドの起用機会は異なり、差別化は可能とする意見も出ている。
中間報告案ではこのほかに、外国人の通訳ガイドを引き続き確保することを盛り込んでいるほか、地域限定通訳案内士制度に関して「実施している6道県の意向を踏まえ、引き続き検討を行う」とした。
通訳ガイド活用で 作業部会を設置
観光庁は、通訳ガイドの制度改正の議論とは別に、現行の通訳ガイドの活用策を検討する必要があるとして、「通訳案内士の活用方策に関するワーキンググループ」を設置し、6月16日に初会合を開いた。通訳ガイド団体、旅行会社、ホテルなどの担当者をメンバーに、今秋までに具体的な方策をまとめる。
通訳ガイドの活用に向けては、情報提供や流通のシステムの改善、外国人旅行者のニーズに合致したサービス提供などの課題があると指摘されている。通訳ガイド業の活性化を目的に、月1回程度の頻度で協議を進める。